Disques Jean-Jean JJ104/5TT
津軽三味線 高橋竹山 青森ライブ
−演奏生活50周年記念 青森公演ライブ−
1974年9月10日 於・青森市民会館大ホール
・レコード��
＜SIDE１＞
横笛（祭り囃子）/語り/
三味線じょんから/語り/
津軽三下り
＜SIDE２＞
尺八（津軽山唄・南部牛追い唄）/語り/
津軽音頭1/語り/
三味線よされ |
・レコード��
＜SIDE３＞
あいや節/語り/
口説節/じょんから口説/語り/
津軽じょんから節/語り/津軽よされ節
＜SIDE４＞
弥三郎節/語り/
即興曲「岩木」 |
ライナーノーツ −流れきて 流れさる− 佐藤貞樹
自分でもねぶたをつくったほどまつりの好きな竹山だが、笛は子供のころかふいていて、まつりの行列について歩いた。ふるさとを捨てた門付けの旅にあけくれ、村のまつりの季節になれば、帰りたくてひとり泣いた、そればいちばんつらかった、そう語りながら竹山は一瞬絶句し、笑ってごまかそうとしたがぎこちないつくり笑いだった。客はひとりも笑わなかった。語る方も聞く方にもつらい話だった。本来めでたかるべき記念演奏会だったが、少しも華やいだものはなかった。青森でのこの夜の演奏会はそんなふうにはじまった。
だが、五十年という区切りをつける以上、話はそこからはじまるしかない。そこからはじまった五十年の、しかし、何を記念するというのか。そして誰が。わずか十五才の反盲の少年がひとりで生きるために・・・それはホイトと軽蔑された門付けをして歩くことだった・・・いやいや手にした三味線だったのだ。泥にまみれた半生、などといえるものでなかった。たえがたい屈辱と貧困のなかを彼はつきぬけてきた。名人とうたわれ、マスコミでさわがれようと、竹山にとってそれはどうでもいいことだ。たかが津軽のボサマのくされ三味線でないか、そういった自嘲は実は強烈な開き直りなのだ。それは、私には、お前さんにこの三味線がわかるか、といっているようにきこえるときがある。なにをいまさら五十年記念だなんて。その日のくらしをかせぐ、生活のための三味線であることはむかしもいまもかわりないのだ。だが、一棹の三味線が私たちをひきつける力のすごさはなんといったらいいだろう。
青森市の県立郷土館を訪れた人は、静かに館内を流れている尺八の音を耳にするはずだ。風のごとく、水のごとく、流れきて流れさる尺八のそのいやみのない自然な音。竹山の音だ。誰に習ったのでもなく、門付けしながらひとりで覚えたという尺八の、なんと心にしみることだろう。技巧でない、人の声よりももっと人くさい音。これがうたであり、楽の音というものだろう。竹山の三味線もまた、うたであり、詩だ。あれは、糸が鳴っているのでない。太棹のかた木が泣いている音だ。
青森での演奏会はやりづらい、といっていた。やっても人が入らないよ、といっていた。地元というのは身近かすぎるのか、知らなくてもよく知っているような気になるものだ。青森で年に一回、それも二、三百人のこじんまりとしたところでやっていたのだから、多くの人は竹山の生まの音はきいていない。千四百人のこのホールも、できて十数年にもなるのにここでの竹山の演奏会はこの夜がはじめてだ。さすがに満席の盛況だった。そして、若者も多く、いい客席だった。竹山も珍しく気負ったところがあったり予定にはなかったふるいうたをじぶんでうたったり、いつになく融けこんだふうだった。やはり、おなじ津軽のことばを話すものどうしという気楽さもあったのだろうか。あったかい雰囲気だった
嘲笑とあざけりを逃れて他国を放浪した竹山にとって、ふるさとはつめたかったがこの夜はやさしかった。五十年を三味線と歩いて、そのふるさとの大きな舞台でひとり三味線をひく竹山の見えぬ眼に去来した思いは何だったろう。
長くもあり、また、すぎてしまえばみじかい五十年でもあった。
・・・
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